エプロン

 最近は個人情報の漏洩を気にしてか、社員名簿も配布しない企業も多い。知人の住所録の管理に不精をして居る人にとっては年賀状が頼りでも有る。男は前から四方を家で囲まれた真中に中庭の在る家に憧れて居ったが、やっと古い民家が手に入り家移りを済ませた。荷物の始末も未だで有ったが取敢えず、住所の変更の御知らせの葉書を出した。葉書の終わりに、近くに来られた場合には一度御立ち寄り下さいと書いて有った。
 強度に問題が有ると分かった欠陥マンションに住む女は地震が来たらビルが倒壊すると思い込み狼狽して居った時に其の葉書を手にし有る策略を思い付いた。
 或る休みの日に、女は一人娘を連れて男の家を訪問した。娘を外に待たせ一人の様な顔をして男の家を訪れたので有る。
「一寸近く迄来たもんで序に一寸家を見せて貰おうと思って」「古い昔の家だが頑丈な作りじゃけん」
「柱も太いし天井の梁も太いし、裏は竹林し、地震が来ても大丈夫やわね」
「ええ、中庭なっか有るのね」女は一編に好きに成ってしもうた。御茶を頂いて居ると黒猫が遣って来て初めての客の女の膝の上の乗って寝てしまった。何とも厚かましい猫で有った。
「奥さんは何処に」「ええ未だ一人なんか、あんたも阿呆やね」女は何を思ったのかエプロンを掛け出し台所を片付けだした。御腹が空いたのか黒猫は女の足に纏わり着いて甘えたて鳴いた。
「懐かしいわね、うち等、学生の時は仲良しやったんやで、覚えて居るか」
「なああんた、うちの御尻を触って見たくは無いか」「ええ、触っても良いのか」
「なああんた、うちの御乳も触って見たくは無いか」「ええ、触っても良いのか」
「私を抱かして上げる」「ええ、抱いても良いのか」
「相変わらずやね、言われ無いと何も出来無いのね」「こんな事して居たら、夫婦に成った様な変な気に成るわね」其の時玄関の扉を敲く音が、玄関の外で少女が便所を拝借したくて地団太踏んで待って居ったので有る。
「我慢でけへんかったんか」女には子が居ったので有る。少女は便所に飛び込んだ。
「うちの住んで居る欠陥マンションは地震揺ったら倒壊するねんて。うち未だ死にとう無いし」
 女は困り果てて居ったので有る。
「前の夫は酷い男やったさかい、うちは贅沢言わ無いさかい、あんたでもかまへんで」
 女は勝手に夫婦の様な気に成ってしもうた。
 女は次の日曜日に荷物を運んでしまい、夫婦を決め込んでしまたので有る。
 夕食の最中に。
「こんな生活をして居たら、何やら家族に成ったみたいやね」「御免、うんこしたく成ったわ」「お母ちゃんたら下品な、食事の最中なのに」「パンツの中に放いてしかっても良いのんか」
「お母ちゃんたら最近病気やねん、やや子が欲しいのか盛りが憑いてしまってんねん・・・」
「春子、又阿呆な作り話を言って居るのか」「食事が終わったらしっこして小父ちゃんにお風呂に入れて貰い」「うち恥ずかしいわ」「未だ子供やろ恥ずかしがる歳違うやろ」
「しっこしたか」「うちも入ろ」女も入って来てしもうた。
「お母ちゃんたらさっきから恥ずかしい所ばっかり洗ったりして、如何したん」
「あんた、背中を流してやるよってここへ上がり」「うち、やや子が欲しい、夫婦に成ってしまわへん」「うちもうあがるわ、恥ずかしくて見てられへん」「未だおそそも洗ってへんやんか」
 男は烏の行水で有った。風呂から出た時に男の祖母が遣ってきてしもうた。
「大分片付いた様じゃなあ」「又、縁談かいのう」「あんた、怒ったんか」女はバスタオルを腰に巻き付けた丈で出て来てしもうて祖母と鉢合わせてしもうた」「何じゃあの女は」「ただの友達じゃけん」
「ただの友達と一緒に風呂に入り居るのか、この馬鹿たれ、あんな子持ち女と結婚する積もりか」
「しかし厚かましい女じゃ、もう夫婦に成った積もりか」女は散々しかられてしもうた。
「今、何をしよったんじゃ」恥ずかしさの余り放心気味の女、男はそんな女が愛しくなってしまい寝間で何やら始めてしまった。呆れ返って言葉も出無い祖母。「御祖母さんたらこんな所で粗相等なされてしまって」「わてと違うで、あんたのお母ちゃんやがな、わては帰るよって雑巾でちゃんと拭いとくねんで」「なんでうちがこんな事をせなあかんのんや」ぶつぶつ言い乍拭き掃除をする少女。黒猫が尻尾を立ててやてきて甘えるて鳴き。背中を撫でて遣たが、匂いを嗅いだら何処かえ行ってしもうた。寝間で女が喘ぎ出した。如何やら又悪い病気が出た様で有る。
 朝に成って。                                        「お母ちゃんたら恥ずかしい、他所の家に来て、御尿垂れ何かしてしもうて」
「春子、今日から小父ちゃんの事をお父ちゃんと呼ぶねんえ」
「偉そうに、もう夫婦に成ってしもうたんか」
 其の内、女の御腹が膨らんで来て、男は世間体が悪く成り、嫌々結婚をさせられてしまった。女は其の内女の子を産み落としたが、男の子が欲しかった女は男の子を産む迄女の子を産み続けたので有る。男の子を産んで初めて盛りが消えたので有った。既に四十路に達して居たので有る。四姉妹は母親に似ず、其々淑女に育ったが、末息子は母に似てもひとつで有った。人生は思い通りには行か無い物で有る。


            2006−01−29−96−01−OSAKA



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