背乗の猫

 長女の華絵は美人で婿を盗る処を激しい恋をしてしまい、三人の妹をを残して嫁いでしまい。婿盗りの嫌な妹達は婚期を逃し勝ちでも有った。華絵は嫁ぎ先で不始末を仕出かし、出戻されて居ったので有る。美人の華絵は何やら小走りで自宅に帰って居った。小用を我慢して苦しい思いをして居ったので有る。はしたなく草履を揃えるのも忘れ、憚りに駆け込みで暫しの至福の快感に浸って居った。ホットして手を洗い座敷を見たら。髭を生やした乞食の様なみすぼらしい格好の男が厚かましくも座敷で大の字に成って寝て居り、黒猫が男の御腹の上でまどろんで居った。風呂に入った事も無いのか何やら臭いので有った。
「空き巣に入って、寝込んでしまうとは、呆れた泥棒じゃ」
「先生は御帰宅成されましたか」「はあ」
「ああ、又」男は御尻を押さえて憚りに駆け込んだ」
「呆れ果てた男じゃ、人の家に勝手に上がり込んで糞垂れしてしてしもたんか」

 華絵は父の古い衣服を借り、男に御湯を使わした。男は湯浴びをし、髭を剃って衣服を着替えた。
「呆れ果てた男じゃ、生活に困って恩師に迄金の無心か、まあ良い、金に困って刑務所に入りたくて強盗する族も多いが、まだましか」
「そなたの顔には男を食い殺す魔性の想が宿って居る、一生幸せな結婚等望めまい」「何じゃと」
 呆け始めた父が帰って来て、優等生の教え子と勘違いしてか話が弾み、酒が進んだ。父は男を華絵の婿にと勝手に決め込んでしまった。男も男で厚かましくも其の気に成ってしまたので有る。
 華絵は休日は座敷で新聞を大きく広げ、隅々迄読むのが慣わしで有った。すかさず黒猫が遣って来て背中に乗ってまどろむので有った。
「何を見て居る、美人の顔を拝むのは久しぶりか」
「それにしても厚かましい猫じゃのう、人の背中に乗るとは」
「下痢はもう治ったか」「昨日の事は先生に内緒に願います」
「粥を啜って居る丈では力も出まい、しばらくは内で休養するが良い」

「人は命を授かった恩義は、愛を持って返すべきで有る。」男は説教めいた事を垂れながら、尻は掻くわ淑女の前で屁を垂れるわ、道端で立ち小便を為るわで有った。妹達の顰蹙を買って居た。

 朝、起きると蒲団の側に男が寝て居ったので有る。御乳迄触られてしまたので有る。        「こら、何処で寝て居る」
「此れは失礼致した、先生に知れたら、責任を取って夫婦に成れねば成らぬ不運で有った処で有った」
「はあ」
 父は男に婿に成る様にひつっこく言い、男も困って居ったが。
「到頭、決心が付いたぞ、喜べ華絵は今日から儂の女房じゃ」と言っては御尻を撫でた。
「ああ? 何を考えて生きて居るのじゃ」
「目が覚める様に、ションベン引っ掛けたろか。

 男は華絵や家が気に入ったのか居付いてしまった。淑女の華絵の妹達は下品な男に顰蹙の眼差しで有った。

 日曜日は野良仕事や掃除、洗濯が山程ど堪って居って、猫の手も借りたかったので有った。
「此れ、引っ付いて歩くで無い、人が見て笑って居るで無いか」
「もし、殿方が来ぬか見張ってて御呉れ」
「真逆、此処で尿を放く心算じゃ」「もう我慢が出来ぬ、漏れそうじゃ、御粗相を放いては恥晒しも良いとこじゃ」華絵は御尻を捲くり上げて気持ち良さそうに尿を放いた。
「殿方の前で、恥ずかしくは無いのか」「何処に殿方が居られるのじゃ」
 華絵が風呂に入って居ると突然に男が入って来たしもうた。
「此れは失礼致した」「ついでじゃ、背中を流して御呉れ、そなたは私の亭主では無かったのか」嫌味を言うた。
「華絵殿には散々世話に成りどうしで、御礼をせねばな」
「此れ、そんなにおそそばかり見詰めるで無い、恥ずかしいでは無いか」

「此れ、何時まで憚りを占領して居るのじゃ」其の内、中から高鼾が聞こえて来た、華絵は仕方なしに朝顔で小用を足してしまた。腹の立つ男で有った。
「お姉ちゃんたら、何処でおしっこしてるの」妹に見付かってしもうた。

 厚かましい男も恩義を感じたのか、沖の島の洞窟の竜神様に御祈りして、幸せを授かって御礼をしたいと言い出し、華絵を小船にのせ参拝した、御参りを済ませると華絵は小用を催し。
「気張って漕ぎよし」男を急がした「空模様も怪しく成ってきたで」朝はあんなに晴れて居たのに急に怪しげな雲が空を舞い出し。突然に竜巻が起こり海水を巻き上げた。白龍が天に昇るが如くで有った。雷が稲光き、雷鳴が轟き、突風が吹きすさび、怒涛が逆巻き、舟は木の葉の様に弄ばれ。終に舟は転覆したが水神さまの助けも有ってか、男は花絵を助けた。瀕死の華絵を背負って家に辛うじて辿り着いた。華絵は身篭ってしまった。
「華絵さまは竜神さまの子を宿ったのか」と本人に聞こえる様にからかった。
「阿呆、わての気を失って居る間に悪さなんかしおって」
 父無し子を育てる訳にも行かず男と夫婦に成る事にした。玉の様な元気な子が産まれ竜男と名付けた。 竜男は元気一杯、病気一つせずスクスクと育ったが、村一番の腕白で有った。
「おかん、又、太刀魚を釣ったで」と自慢げに言っては母者の背に跨って乗る有様で有った。

 華絵が何時もの様に座敷で新聞を読んで居ると、白猫が遣って来て背中に乗ってまどろんだ。
「やや子が出来たら少しは変わるかと思ったら、其方は相変わらずじゃのう、御尻は触るし、憚りには付いて来るし、御風呂は覗くし、呆れ果てた話じゃ。目が覚める様にションベン引っ掛けたろか」
 華絵は何度も行って居る内に口癖に成ってしまった。或る長雨の晩に御風呂に入って手拭で泡の照る照る坊主を作って戯れて居ると、亭主が入って来てしもうた。
「華絵、背中を流して呉れるか」と偉そうに言った。背中を流し乍。
「噂に聞いたが、大阪と言う処では今だに女丈しか乗れぬ列車が走って居るそうな、珍奇な話じゃのう、大阪と言う所は余程痴漢が多いので有ろのう」「ああ、もう我慢が出来ぬ、御風呂に入る前に小用を足すのを忘れた、其方の前で御粗相を放いては一生の恥じゃ」
「もう一人やや子が欲しいものじゃのう、今度は山神さまに御願いしてみようぞ」
「もう好い加減に目を覚まさぬか、萬の神々に御願いしても、凛呼も立たぬではやや子等出来ぬわ」
・・・
「良いか、昨日の事は誰にも言うで無いぞ」花絵は釘を刺した。

 秋の或る日、茸捕りに出かけたついでに子が授かる様に山神さまに御参りに行き。二人は又、嵐に出会ってしまった、雷が稲光き、雷鳴が轟き、木の葉が天空を舞った。二人は道に迷い、女人禁制の神域に迷い込んでしまった。帰りの増水した谷川を渡り損ねて、手御繋いだ儘流されてしまい、女人の滝の滝壺に真坂さまに落ちたが、水神の御助けを受けてか無事に。朝に成って瀕死の花絵を背負った男は村に戻って一安心。華絵はやや子を身篭り、村人は華絵に聞こえる様に、「華絵さまは水神さまの子を宿したのか」とからかった。華絵は可愛い女のやや子を産み落とし、神代と名付けた。元気な娘に育ったが、村二番の腕白で有ったが、母者には似ず天女の様な顔をして居ったが。
「おかやん、山でよーけ舞茸が取れたえ、喜んで」と言っては、母者の背中に跨て乗る有様で有った。






         2007−09−18−259−01−01−OSAKA



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