黒猫の郵便配達

 西家と東家は親戚で冠婚葬祭の度に集まって、子供も家族同様に付き合って居った。村外れの西と東に其々位置し、昔乍の旧家で有った。村の真ん中を小さい川が流れ、昔乍の旧街道と十字に交差して居た。昔の農家の様に庭には籾が干せる大きな庭っが有った。春子と四郎は大きな庭で遊び、西家の庭の椿の大木に登っては花の蜜を吸って居ったので有る。春子は四郎の母の梅に恋をしてしまった。実の母の様に慕ってしまったので有る。許婚の四郎を出汁に遊びに来て置き乍台所に入り浸りで有った手伝って居るのやら、邪魔をして居るのやら。東家の春子の三人の姉は其々既に嫁ぎ、善き夫に恵まれ幸せに暮らして居った。男鰥夫の父と二人で暮らして居った。四郎のには三人の兄が居ったが遊び呆けて居った。春子も春子で母者に内緒で
「なあ、お小遣いくれたらお乳を触らしてあげる、お尻を触らせてあげる」と言っては膨らみかけた小さいお乳を触らし、お尻を触らせては小遣い稼ぎをして居ったので有る。兄達には御尻を自由に触らせて置き乍、四郎が真似て触ると痛い拳骨が頭に飛んで来た。
「なあ、うち、催して来てしもうたわ、いいものを見せてあげるから来ない」年上の男を便所に誘っては恥ずかしいところを見せてからかって居ったので有る。

「春子ちゃん、夕御飯食べて帰り」
「春子ちゃん、一緒にお風呂入らへん、早よしっこしといで」梅も梅で有った。
 四郎の事等ほったらかしで有った。「この家の猫は雄猫か」民子は猫の尻尾を捕まえて引き寄せ、猫の下腹を覗き込み睾丸を弄ぶ始末で有った。猫も猫でされる儘に成って居ったので有る。
「可愛そうに、犬みたいに首輪させられて、気持ちが悪いだろうに」邪魔な物を付けると鼠が取れ無いのにで有る。
「四郎、暗く成る前に春子ちゃんを送ってあげ」
「なあ、猫を二三日、うちの家に貸して呉れへん、鼠と鼬が天井裏で運動会をして居るねん、煩くて寝られへんねん」

 雄の黒猫は捨てられる思ってか家の玄関から出たら途端に急に暴れだしたが、春子は強引に首筋を捕まえて家に連れ帰った。借りて来た猫は暫くは大人しくして居ったが次第に慣れて、脚に纏わり着き春子のスカートの中を覗き込む始末で有った。三日目に居心地が悪いのか自分の家に帰ってしまた。一度通った道を頼りに戻った、帰巣本能が働くので有ろう。懲りもせず何回か行き来して居る内に、猫も勝手に行き来する様に成ってしまった。両家の家で餌を強請って居ったので有る。

 或る日の日曜日、何時もの様に春子が遊びに遣って来たが、梅は親戚の法事に出かけてしまった。腹具合を悪くした四郎は大便所から中々出て来なかった。急に激しい尿意を感じた春子は困り果て、我慢出来無く成り尿垂れをしてしまい、余りの恥ずかしさに両手で口を覆い放心状態で有った。長男の一郎に見付かってしまい。一郎はムラムラと成って。春子を寝間に連れて行き犯してしまった。
「小遣いを遣るよって誰にも言うたらあかんで」と一郎。
其れを見た次男の次郎もムラムラと成って。出て来た二人を見て抑制出来無く成り又寝間に春子を連れ込み犯してしまった。
「小遣いを遣るよって誰にも言うたらあかんで」と次郎。
其れを見た三男の三郎もムラムラと成ってしまい。出て来た二人を見て抑制出来無く成り春子を又又寝間に連れ込み犯してしまった。
「小遣いを遣るよって誰にも言うたらあかんで」と三郎。
便所から出て来た四男の四郎迄もムラムラと成ってしまい、出て来た二人を見て抑制出来無く成り又又又寝間に春子を連れ込んで犯してしまた。
「小遣いを遣るよって誰にも言うたらあかんで」と四郎。呆れた兄弟達で有った。
 春子は輪姦されてしまたので有る。春子は四人もの悪童達に犯され、開き直って説教を垂れた。
「呆れ果てた男共じゃ、一人位止めようと言う気には成ら無んだのか、こんな悪さがお母はんに知れたら何んと言うて嘆くで有ろうかのう。やや子が出来たら何とする、うちは誰と夫婦に成ったら良いのじゃ・・・」
「一郎さんは学生の頃は学年一の神童と聞いて居ったが、大人に成ったら徒の男か、一郎さんは此の前、お見合いをしたのでは無かったのか、こんな悪さが世間に知れたら、一生真ともな縁談等来ぬわな・・・」
「次郎さんは天神さんの祭りの時に、御輿を担いだり、太鼓を敲居たりして居ったが良く罰が当たら無いいものじゃ」
「三郎さんは生徒会の副会長ではなかったのか、勉強好きの真面目一本と聞いて居ったが色事は別なのか」
「こら、四郎、話をしておる最中に何処へ行く」「又、便所に」御尻を押さえ乍慌てて、大便所に駆け込んだ。
「呆れ果てた男じゃ、あれがうちの許婚か、して居る最中に良く糞垂れせ無なんだもんだ、うちはあんな碌で無しの男と夫婦に成らんと厭かんのんか」

「ええか、こんな悪さ、お母はんにしれたら大変や、一大事や、真面目に勉強して居る振りする事じゃ、勉強の妨げに成る、もやもやはうちが又処理してあげる由って、又、楽しみにな・・・」
 春子は小遣いを返すのも、御粗相の始末をするのも、濡れて穢れたパンツも忘れて帰ってしまた。
「四郎、便所の掃除しときや」と一郎「何で俺ばっかり、春子の尻拭いをさせられなあかんねん」四郎はぶつぶつ文句を言い乍も、大便所の前の板の間を拭いた。
 女物のパンツが干して有るのを見つけ唖然としてしまった。
 悪さをした事を隠す為に働いて居る長男を除いて三人の悪童達は、学校の勉強を遣りだしたから、母者は不審に思い始めた。如何も春子が怪しいと思い出した。
 或る日曜日に、母者は隣村の親戚の法事に行くと息子達に嘘を付き、態々他所行きの着物に着替えて洋傘の不似合いな日傘を差して出かけた。暫くして秘かに発ち戻り八手の木の陰に潜んで家の中の様子を覗いて居った。案の定春子が遣って来た。サンダルを履いて道端の野の花を摘んで、鼻歌雑じりで有った。男達を一列に並ばせ、古い父の懐中時計を首に掛け、ストップウォッチ代わりか時間を決めてやる心算らしい。平然と前金を集めて居った。春子は春を売って居ったので有る。
「ええか、変な事したら、おしっこ引っ掛けたるよってな」
 梅は唖然、呆然としてしまい如何して良いか判らず。母者は何も用も無いのに隣村の親戚の家に出かけ仏壇を拝ませて貰い、帰り掛けた時に偶然に春子の父に出会って、息投合してしまった。梅は眩暈を覚え昼間から宿で休んだ。御互いに一人暮らしで寂しい思いをして居ったので有る。人に言えぬ愚痴が山程有ったので有る。

「お母はん、喜んで、うちにやや子が出来た見たいやねん」「何やて、誰のやや子や」
 春子は平気な顔で四郎の家に入り浸りで有った。
「お母はんたら、四郎ちゃんの子に決まって居るやろ、阿呆な事言わんと居て」罪意識が皆無の春子。
「嘘吐くても大きく成ったら判る事やで、図星で有ろう」
 春子は口篭て居ると。
「ほれ見、呆れた女子じゃ、父親が誰かも判らぬ様な悪さをして居ったのか」
「そなたは、将来四郎の嫁に成る大事の身、ふしだらは許さん、暫く家で謹慎せえ」春子は御尻を散々打たれ、謹慎を命じられ、禁足を言い渡されてしまった。四郎とも逢う事も叶わ無く成ったので有る。

「なあ、あんた、猫が行き交いして居るえ、首輪に手紙を仕込んで置いたら、文通が出来るわよ、猫の郵便配達や」二人の文通が始まった。二人は恋をし恋文に変わった。猫は何も知らず只管往復して居った。
 悪さをすれば天罰が下る。春子にやや子が出来てしまた。愚かにも父親が判ら無いので有る。
「兄じゃの子でも構わぬ、自分の子として育てる」と言い出す四郎。

 中学校の卒業を目前にして春子の父と四郎の母が学校に呼び出されて、叱られてしもうた。先生に叱られて居る最中に四郎の母の梅は気分が悪く成り、吐いてしまった、悪阻で有る、梅にやや子が出来てしまったので有る。四十の恥掻きっ子で有った。花子の父と陰で悪さをして居ったので有る。

「うちのお母はんに成って」「いいわよ、到頭、四郎の嫁に成る決心が付居たか」
「お父はんのお嫁さんに成って」「何やて、春子ちゃん、大人をからかうものじゃ無いえ」
 春子は叱られてしもうた。

 長男の一郎に花嫁が嫁いで来てしまい、遊びににも行き辛く成った。

 或る日、黒猫を御腹の上に乗せて、座敷で昼寝をして居ったら、四郎が遣って来た。
「お母はんにやや子が出来たらしいで、良い歳放居て恥じ晒しな」
「ええ、あんた、親子丼してしもうたんか」
「お前のお父はんとやがな」「・・・」「お父はんは教頭やで」
「教育者でも色の道は別じゃが」

「わても、悪さしてしもうた」梅は恥ずかしげに顔を覆った。

 今迄、行き来いして居った黒猫がトンと来無く成った、如何やらお気に入りの雌猫が出来たらしい。

 四郎が養子に来て呉れて、やや子の出来た梅も嫁に来てしまい、ややこしい事に。春子は男の子を産み落とし、どう言う訳か五郎と名付けた。梅は女の子を産み落とした。桜と名付けた。
 双方共母子共に頗る元気で有った。

「あんた、又、わてのお尻触ったな、あんた見たいな男が居るから、此の大阪に女性専用車両が必要に成るのじゃ、恥晒しも良いとこじゃ。目が覚める様に、おしっこ引っ掛けたろか」春子は相変わらず下品で有った。五郎の学校の成績は学年一で有った。如何考えても出来の悪い四郎の子とは誰一人思う人は居無かった。鳶が鷹を産んだので有る。

「春子、また此の料理か、此れは饂飩か茶碗蒸しか」「お母はんはお嫌いですか」
「子供の頃、わての母は良く作って居たえ、なあ、お父はん、四郎はんは好きやろ、五郎ちゃんは好きやで」「うちは好きやで、他所で見た事も食べた事も無いで」と桜。
「あんたも変わらへんね」
 梅が座敷で新聞を大きく広げて読んで居ると、何代目かの白猫が梅の背中の上に載った。
「これ、猫が人の背中に乗るものでは無い、鼠は捕って居るのか」
 西家にも何代目かの猫が居て、春子が法事で行くと勝手に膝の上に載りに来るので有った。
「お前は雌猫やな」と尻尾の下を覗き込むので有った。五郎が桜に恋心を抱いてしまった、初恋で有る。
 猫が居て、犬が居て、父は健在で、妹は天女の様な女子で有った。天下泰平で有った。

 季節が何回か廻り、冬に成って。
 今宵は特に冷え込みが酷い、空模様も怪しい、大阪でも珍しく初雪が降るかも知れぬ。
 初雪が降って、朝に成って。

                 初雪や、猫の足跡、梅の華






          2007−06−11−233−03−01−OSAKA




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