いばり女房と小便地蔵

 昔懐かしい昭和の話で有る。襟子は一度結婚に失敗して居った。病弱な養子の亭主に威張り倒し、養子は逃げ出してしまったので有った。器量の好い妹の春江は姉に遠慮してか中々縁着こうとし無いで居ったので、元気な男なら贅沢は言うまいと心に決めて居ったので有る。襟子は寺の和尚さんに泣き着いて御願いして或る饂飩屋の二階で見合いをする事とあい成った。相手の男は梲の上がらぬ伍郎では有ったが力仕事なら御手の物でも有った。
「あ、尿がしと成った、あんたもしおし」女は連れ尿を求めた。女は尿を放き乍。「うち、あんたが好きに成ってしもうた。あんたもうちで我慢しとき。好い事が有るかもしれへんで」
 見合いの席で鼻はかむは屁は放は、仲人の和尚は呆れ返って居った。
 襟子は見合いの後で和尚さんに内緒で近くの佐太天神宮に参ろうと言い出す時は気に入った証拠で有った。今度も気に入ったのか佐太天神宮に参ろうと言い出し。春とは言え未だ雪の舞う寒い日で有った。
 女は拝殿前で賽銭をあげ、鈴を鳴らし、手を合わし乍。
「あんた、うちに愛想を尽かしても、直ぐには縁談を断るで無いぞ、良いな」女は恥を掻かされ無い様に釘を刺したので有る。帰り道で「ああ、困った事に成ったえ」「あんた、うち、御手水がもう我慢出来けへん様に成ってしまうた。人が来ぬか見張ってて御呉れ」「真坂、此処でする積りじゃ」「殿方の前でするのは死ぬ程恥ずかしいけど、御粗相をしでかしたらもっと恥ずかしいやろ」見合いの相手の前で遣らかす気らしい。伍郎は唖然としてしまって居った。如何に人気の少ない田舎道の事とわ言え、訪問着に身を包んだツンと澄ました小綺麗な好き女が、行き成り御臀を捲くって立ち小便を始めてしもうた、余程我慢をして居ったのか、夥しい量の尿を馬の小便の用に長々としだした。呆れ返って言葉も出無かったので有る。
「ああ、気持ち好い、あんたもし」伍郎も伍郎で有った。襟子に恥を掻かせまいと自分も遣り出した。
「ああ、恥ずかし、殿方の前でおならも放いてしもうた。うち等似合いの夫婦やわね、割れ鍋に閉じ蓋か」勝手に夫婦を決め込んだ。
「あ、如何うしょう、御地蔵さんの前で放いてしもうたえ。罰が当たったら如何しよう、お地蔵さん、堪忍え」女は手御合わせて祷った。
「あんた、今の事、誰にも言うたらあかんで、言うたらしばくえ、良えな」怖い女でも有った。
 あんのじょう天罰が降ったのか足に腓返りを起こしてしまって歩け無く成ってしまった。
「あんた、うちの家迄おぶって帰って」伍郎は女を背負って帰る羽目に。
「お姉ちゃん、如何したん」世の中巧くは行かぬ物で有る。妹の方が良かったので有った。
「これ、養子の伍郎、あんたはもううちの亭主じゃ、もう何処へも帰る事は許さぬ、一生うちで只働きするのじゃ、良いな」夫婦に成る前に、臀に敷いてしもうた。「お姉ちゃんたら又酔っぱらって居るの」
 朝に成って、伍郎が便所の前で襟子と間違って妹の御臀を触ってしまったから大変な事に。
「何を考えてあんな悪さをしよったんじゃ」「お臀を撫でたく成ったら、うちのお臀をなんぼでも撫で。妹の春江は嫁入り前の大事な身体、汚れる様な事が有っては成らぬ。気い付けなはれ。未だ生娘え」
 三日後に又、御勝手で襟子と間違えて妹の御乳を触ってしまったから大変な事に。
「あれ程悪さをしては成らぬいと言ったのに、又悪さをし居って、うちも考えねば成らぬのう」
「男とは変わって居るのう、触っても良いと言って居るのにうちのお乳は触らぬのに、触っては成らぬと言って居る妹のお乳を触り居るか」「男とはそう言うものだと知らなんだ私が愚かで有ったのかのう」
 何日か経った或る休日、男は無理やり向かいの三毛猫を立って歩かせ様と遊んで居った。
「阿呆、何をして遊んで居るのじゃ、子供見たいに、何もする事が無くて退屈して居るのか」何やら前を押さえモジモジしだした。又連れ尿をしたいらしい。
「うち、催して来たわ、好いものを見せて上げるよって、付いといで」女は何を思ったのか便所に誘った「内緒やで誰にも言うたらあかんで」「見たくはないのか、あんたも好きであろうが」生憎妹が帰って来てしもうた。
「お姉ちゃんたら恥ずかしい、御不浄の戸を開けた儘でおしっこなんかしたりして、養子さんに愛想尽かされて又逃げられてしまうえ」叱られてしもうた。或る日、何時もの喧嘩が又始まった。
「あんた、今、うちの御臀を叩いたな」「男の前で屁を垂れるからじゃ」「養子の分際で偉そうに威張り居って、うちは、放きたい時に放くあんたの指図は受けん」「又何で喧嘩してんの、未だ結婚もしてへんのにもう夫婦喧嘩か」男は女の下品さに閉口して居った。男の前で鼻はかむわ、かませるわ、平気で屁を放くわ朝顔に立ち小便はするわで有った。便所の扉も閉める気も更々無かったので有る。
 又、何日か経った或る日、村に不幸が起きた。村一番の長寿で有った遠縁の御婆さまが亡くなられた。「其れにしても此の菜種の花咲く頃の長雨は何じゃ、作物が腐ってしまうではないか、梅雨には未だ早いと言うのに」女は雨の日の知り合いの葬式に参って居った。「ああ、御臀迄偉い濡れてしもうた、尿垂れしてしもうた見たいえ」
 男は女の喪服に惹かれたか、むらむらと成って「襟子」「ああ、これ、こんな時に悪さをするで無い、もう直春江が帰って来るでは無いか」
「こら、慌てるで無い、葬式の間中、御手水をずーと我慢して居ったと言うのに」
 男も洩れそうに成ってか、焦って喪服の襟子の御臀をいきなり捲くって後ろから交わってしまった。男は余程女日照りで有ったのか。女を引っ繰り返して二度までも犯してしもうたので有る。暫くして、運悪く春江が帰って来てしもうた。「真昼間から二人で何して居るの」「接吻の仕方を教えて上げてた丈じゃ」「お姉ちゃんたらおしっこ垂れしてしもうたんか」「雨に濡れた丈じゃ」御臀の下の座布団はびしょ濡れで有った。興奮の余り粗相し居ったので有った。「春江は良夫さんとは結婚前に接吻してしもうたら、しばくで、良えな」襟子は関係が出来てしまうと、夫婦に成るものと思い込んで居ったので有る。
「縁談を断るも何も言うまに、夫婦に成ってしもうたでは無いか、和尚さんに何と言ったら良いのじゃ、呆れた男じゃ、今宵からはうちの寝間で一緒に寝るねんえ、判ったな」無理矢理夫婦に成った物と決め込んでしまった。
 御目出度い結婚式が村で久し振りに有った。佐太では佐太天神宮で挙式を挙げるの人も多いが。仏式の挙式を自分の家で挙げる人も居る。見た事の無い神様より、自分に関係の有る。御先祖の前での誓いの方が何やら現実的でも有る。一家で一番大事な仏壇で手を合わせて誓う物と思い込んで居った。子供の頃から襟子は憧れて居ったので有る。
 二十歳前の幼い嫁御は子供の様でも有った。仏壇に手を合わせて何を願って居ったので有ろうか。襟子は少し御酒を過ごしたか。家に帰る途中に便所に行きたく成った。人目を憚り乍小走りで自宅の便所に駆け込もうとしたが、男が入って居った。
「ああ、あんた、早よして、洩らしてしまう」前を押さえ地団太を踏んだ。「此処でしてしまうわ」堪りかね朝顔に留袖の裾を捲くて御臀を出して用を足し乍、「あんた、未だ後悔してんのんか、妹の方が好かったと思って居るので有ろうが、図星で有ろう」「お姉ちゃんたら恥ずかしい、立っておしっこなんかしたりして」「春江はうちが放いてしもて、恥ずかしがってべそを掻く所を見たいのんか」「空いたよ」「もう手遅れじゃ、阿呆」「あんた、今日から一緒に御風呂入ろな、御風呂で淫らな事しよな、楽しみにな」女は開き直った。「お姉ちゃんたらはしたない」「春江、良夫さんと結婚前にしてしもたらあかんで」 伍郎が風呂に入って陰部を洗って居ったら、口先丈かと思って居ったら、襟子が本当に入って来てしもうた。「何恥ずかしがって居るの、真坂、うちが初めてじゃ有るまいに」男は目の遣り場に困ってしまった、前を隠す気等無いので有った。「こら、うちの御そそばかりを見つめるで無い、恥ずかしいでは無いか」「恥ずかしがらずとも良い、背中を流して上げる」女は子供見たいに手拭いを御風呂の水面に広げては泡で照る照る坊主を作って遊ぶので有った、はしたない女で有った。
「うちの背中も流して」「此れ、手抜きをするで無い、汚い処も洗って御呉れ」何やら甘えるので有った 女は極快感に達してしまい粗相をしてしまったから大変な事に。伍郎も自分を抑制出来無く成り、やにわに女を後ろから犯してしもうた。
「こら、又、そんな悪さをしては成らぬ」姉のよがり声を聞いて妹の春江は呆れ返ってしまった。
「お姉ちゃんたら御風呂であんな恥ずかしい事して」「尿垂れしてしもたん見てしもうたんか」「ええ、其んな事迄してしもうたんか」
 何十年に一度の酷い猛暑の夏が遣って来た。大旱魃で有った。雨不足で有ったので有る。
「あんた、南瓜の水遣りは済ませたのか、昼寝ばかりし居って、水遣りをせねば枯れてしまうがな、此の土手南瓜めが」「目が覚める様に、顔に小便を引っ掛けたろか」着物の裾を捲くり上げた「お姉ちゃんたら汚い事を」
 或る日、目が覚めるたら、夢現で襟子の御乳を触ってしまって居る自分に気が吐いた。
「何時まで御乳を触ったら気が済むのじゃ」ズーと触らせて居ったので有った。
「御乳にしか興味が無いのんか」其の寝相の悪さと言ったら。女なのに大の字で有った。腋毛も丸出しで有った。剃る気等無かったので有る。平気で蒲団の中え屁を垂れるので有った。自分の家と勝手に決め込んだ向かいの猫が吃驚して蒲団の中から出て来るので有った。
「あんた、何処へ行くの、妹の部屋に夜這いか」「小便に」「うちもしたくなった」
 女は尿を放き乍、何時もの方便が始まった。
「あんた、観音さまて男でも女でも無いんやて知ってた、如何しておしっこするねんやろ、立ってかな、しゃがんでかな。なああんたも男なら、菩薩の様な良き女におしっこを引っ掛けられたいと思う事も有ろうのう、代わりにうちが引っ掛けたろか」何やら尿を引っ掛けたいらしい。とんでもない女で有った。
「お姉ちゃんたら、朝から何の話して居るの」「観世音菩薩の話じゃ、便所を穢したら罰が当たで」
 真に困った事に成った、例年なら長々と雨の降り続く梅雨では有るが、今年の梅雨が大した雨も無く開けてしまった、空梅雨で有った。天神祭りが済んでも雨は降らず、盆を過ぎても雨は降ら無かったので有った。旱魃で有る、溜め池の水も少なく成った。雨が降らねば作物が枯れてしまうので有った。女と男は珍しく二人連れで佐太天神宮に詣でて雨乞いをした。しかし毎日が日本晴れの快晴の日々で有った、雲一つ無かったので有った。有る日の朝の事、女は夢現で寝間に観音さまが現れた夢を見た。
「村外れの地蔵が心無い人々に汚されて居る毎日清めて欲しい。願いを叶えて呉れたら。其方にやや子を授けよう。さも無くば、軈て天罰が降りて大洪水が此の村を襲うで有ろう」やや子が欲しくて欲しくて堪らぬ襟子では有ったが、何を勘違いしたのか其の反対の事をしてしまったので有る。旱魃の為天罰が降って洪水に成れば良いと思ってしまったので有る。天罰が落ちるように明け方密かに家を抜け出しては地蔵に小便を引っ掛けて居ったので有った。何と言う罰当たりな女で有ろうか。
 或る日不審に思った伍郎に後を付けられ見つかってしまい大変な事に「何て罰当たりな事をしよるか」御臀が赤く腫れる程叩かれてしもうた。「堪忍え、御免、許して・・・」
 其の事が軈て村人にも知れてしまい。妹の春江の纏まりかけて居た良き縁談が破談に成った。
「姉ちゃんがお地蔵さんにおしっこを引っ掛けるてんごをしでかす因って、うちの縁談も壊れてしもうたお姉ちゃんの罰当たり」春江は相手の良夫を死ぬ程恋い焦がれて居ったので有った。
 襟子は恥ずかしくて村に居れなく成ってしまった。襟子は養子の夫に迄愛想を尽かされ離縁され自分の家を追い出される事に成った。女は風呂敷包み一つを提げて、村外れの石橋を渡った時、突然吐いてしまった。如何やらやや子が出来たらしい。しかし今更帰る訳にも行かず石橋の上で行こうか戻ろうか迷って居ったら。暫くして何やら空模様が怪しく成って来た。昼間なのに夕方の様に暗く成った。終に天罰が降ったので有った。当たったら痛い様な大粒の雨が此処に一つ、彼処に一つと落ちて来た。「許して、私が悪かった」女は石橋の上で泣き崩れた、滝の様な雨は降り続き、稲妻が走り、雷鳴が轟いた。石橋の下の小川の水嵩は見る見る上がって来た。大洪水に成るかも知れなかったので有る。襟子の事を思い直した養子の伍郎は後を追っかけて来た。
「襟子、わしが悪かった、出て行くのはわしの方や」「嫌や嫌やもう別れ無い」「帰えろ」
「天罰が降って足も動けへん」又腓返りを起こしてしもうた。「天罰と違う、唯の夕立や」
 伍郎は女を背負って家迄帰る途中。「御免、うち子供に成ってしもうた、あんたの背中でしっこを放いてしもうた、堪忍え」女は男に甘えた。
 相変わらずの襟子で有った。其の内雨も上がり、珍しく虹が掛かった。大洪水には成ら無かったので有った。雨でも良い天気で有った。観音さまも良いかげんで有った。誤解が解けて春江の縁談も無事に纏まった。目出度し、目出度し。
 雨降って地固まるの譬え有り。襟子は自宅で寺の和尚さんに頼んで仏式の挙式を挙げた。
 軈て襟子は玉の様な男の子を産み落とした。襟子は心を入れ替え主人に威張る事も無く成り。人も羨む仲睦まじい夫婦生活を送って居った。災難は御地蔵さまで有った。小便を掛けると願いが叶うと人は何を勘違いしたかお地蔵さまに悪さをする族が後を断た無かった。如何してもやや子が欲しい、良家の御内儀まで悪さ遣らかす始末で有った、其れを又覗く男迄居ったので有る。いやはや、大らかな昔の話で有った






            2006−06−25−136−01−OSAKA




                     HOME
                  −−戻る 次へ++