大掃除の女

 年末の暮れが近づくと新年を迎えるに当たって、何処の御家も大掃除を致しますが以前には梅雨が終わりって夏の盆の前にも大掃除を行って居た物で有る。真夏の焼け付く様な強力な太陽の光の下で畳を干した物で有る。町内で決めた日に一斉にした物で有る。会社も公休を与えて居た事も有ったので有る。
 最近は畳の部屋も少なく成り、大層な大掃除も余りしなく成った、他人任せの大掃除を請け負う業者すら有る。地方自治体も大掃除に力を入れると山の様に粗大ごみが出て来るのが嫌なので有ろう。
 健二は前から密かに心に思って居った女春海にさりげなく頼んで見た。
「何で、うちが貴方の家の大掃除に何か行かんならあかんのん、阿呆たれ」と無碍に断られると思ったら以外にも「良えわよ」と言う返事で有った。女も密かに男を思って居ったので有った。
 其の大掃除の日の朝は日本晴れの快晴で有った。女は朝早くから来て呉れた。大掃除は大変で有った。畳を上げるには先ず家具の移動から初めねばならない。箪笥の引き出しを抜き、二人掛かりの大仕事で有った。畳が元通りに納まる様に位置の印をチョークで付ける必要有り。男でも一人では可也重い畳で有る女は手伝って呉れた。二人で畳を抱えて表に干して居ると。
「五郎さんこの度は御目でとうさん」手拭で姉さん被りの女を何やら嫁御と勘違いして居るので有った。強力な真夏の日差し。畳を上げると古い新聞が顔を出し女は懐かしい記事を読んだりするので有った。真夏で有る、汗だくで有った。女は淫らにスカートを手繰上げるので有った。畳を全部出し終える頃にはもう昼前で有った、腹が減って来た。「何か、私が作りましょか」女はエプロンを掛け出し料理を始めた。料理の匂いに釣られて黒猫が腹を空かして帰って来て。初めての客筈の春海の足に纏わり着いて甘えた。「まあ、厚かましい猫」
 食事中に女はおならを放いてしまい恥ずかしがった。本に下品な女で有った。二人は棕櫚の葉の柄で畳を叩いて居った。                                       「ああ、疲れた」女が板の間で大の字に成って昼寝をして居ると猫が遣って来て御腹の上に載って寝を決め込んだ。「又来たな、厚かましい猫だ事」
 何やら空模様が怪しく成って来た晴れたり曇ったり、晴れて居るのに雨が、狐の嫁入るで有った。女は慌てて起き上がり猫も吃驚したのか逃げてしまった。ヤットの事で家に畳を取り込めた。
「貴方、この忙しい時に何処いくの」「小便に」「私も行っとこ」「貴方も阿呆やね、待ってたら良い女にでも出会うとでも思うてんのんか」「二人で、こんな事して居たら夫婦に成った様な変な気に成るわねえ、なあ、貴方序に結婚してしまわへん」女は尿をしながら求婚してしまった。
 朝はあれ程天気が良かったのに急に空が掻き曇り、夕立が降りそうに成った。今度は二人は慌てて洗濯物を取り込んだ。「貴方て根っからの不精者やね、私に汚れたパンツを見られたく無くて慌てて一週間分を纏めてして洗濯してしもうたんやろ。大掃除の日に洗濯物何か干したりして何考えて居るの」畳を敷き家具を元にもでし終えた時に急に当ったら痛い様な大粒の雨が降り出し雷鳴が轟くき出し女は怖がった。雷が光る度に男に抱きつくので有った。遣らずの雨で有った。女は帰り損ねてしまった。
「何か作りましょうか」女は夕食の用意を始めてしまった。
「御待たせ」女は夕食を運び「今日はご苦労様、夕食迄作って頂いて」「麦酒が有りましたわよ」「春海さんは」「私は駄目、尿が近く成ってしまうし、酔って帰れ無く成ったら困るし」
 春海は変態で有った、膀胱が満杯に成っても中々便所に行こうとせず粗相寸前の快感を味わって居ったので有った。前を手で弄り其の淫らな事と言ったら。
「貴方御風呂が沸きましたわよ」「春海さんは入らないんですか」「男の人と一緒や何んてうち恥ずかしい」何やら勘違いをする女「御背中御流し致しますわ」女が入って行くと、男は恥ずかしがって御湯の中に飛び込んだ。「恥ずかしがる歳でも有るまいに」と無理矢理背中を流そうとした拍子に我慢して居った物が出てしまったから大変な事に。「春海さんたらはしたない」と言い乍、男は恥ずかしさの余り放心気味の女を御風呂の床に押し倒しはしたない事をしてしまったので有る。「あ、そんな悪さをしては成らぬ」「黙って言う事を聞け」男は突然に狼に成ってしもうた「春海さんがはしたない事をするからや。前から春海さんが好きで好きで堪らんなんだ。もう我慢出来ん」「・・・」「春海さんのやや子が欲しい」「・・・」「夫婦に成って欲しい」「・・・」「喚くな」「・・・」「許せ、泣くな、痛かったのか」「・・・」「泣くなたら」「うち嬉しい・・・」
 女も良い歳こいて処女で有ったので有る。男も良い歳こいて童貞で有ったので有る。呆れた二人で有った。
「阿呆、大掃除の手伝いに来さしといて、散々只で扱き使て働かさせ、夕食の支度までさせて置いた女にあんな悪さをしおって、貴方は鬼か、畜生か、やや子でも出来たら如何する心算じゃ、口封じに私にやや子を降ろせとぬかす心算か、人で無しとは貴方の事や」女は何やら一人でぶつぶつ言いながら布団を敷き出した。最早帰る気等無い様で有った。
「飛行機して」女は甘えて子供に成ってしもうた。
「まあ、蚊帳や何て懐かしい、未だに吊ってるのか」蚊帳を吊ると何故か落ち着くので有った。昨日まで他人で在った男女が一つ蒲団で寝て居るので有る。夜中に黒猫が枕元に遣って来て、中に入りたがった。蒸し暑く寝苦しい真夏の真夜中の出来事で有る。「又、厚かましい猫や」夏でも猫は人の寝床に入りたがるので有った。
 夜が白けて来た。女は安心しきって傍で寝て居った。黒猫が起こしに来た。
「春海さんは腋毛を剃らぬのか」「何の為に、変な事に拘るのね、しっこがしたく成ったわ」と言ってわ起き出した。懐かしい味噌汁の匂いが漂ってきた。男が食卓に着くと。
「阿呆、うちらもう夫婦ぞ、今更後悔してももう手遅れじゃ、自分のした事を悔やむが良い」
 三ヶ月が経った或るの日曜日も女は掃除に遣ってきてしまい。溜まりに溜まった一週間分の男の汚れたパンツも嫌がらずに洗濯し干して居った。秋晴れの洗濯日和で有った、其の日に姑と会ってしまった。
「これ、娘、こんな所で何をして居る。五郎のパンツなんか洗い居って」「御免」「何処へ行く憚りか」 緊張した拍子に尿の我慢が出来なく成った女は便所に駆け込んでだ。
「五郎、此れは如何した事ぞ説明してみー」
「結婚もしてない内に淫らな事をするで無い。わての目の黒い内はふしだらは許さん」
 二人は散々叱られてしもうた。叱られて居る最中に猫が遣って来て、女の膝の上に厚かましくも載って昼寝をし始めた。天下泰平で有った。
「それにしても良く片付いて居るのう」「以前とは大違いじゃ」
「御母はん、喜んでうちにやや子が出来た見たいやねん」「何やて」二人は式を挙げ。春海は男の子を産み落とし、良き母に成ったが相変わらず、掃除好きげ有った。


            2006−03−19−110−01−OSAKA



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